由香里 › 広島土砂災害 押し流された8人の生活

広島土砂災害 押し流された8人の生活

2014年08月27日

 土石流の流れの真ん中に1棟のアパートがあった。2階建ての「ルナハイツ」。広島市の土砂災害はここで暮らす男女8人の生活も、建物ごと押し流してしまった。27日で発生から1週間。2人が死亡、まだ6人が安否不明だ。肉親を捜す家族は「ただ顔が見たい」と話す。安佐南区八木3丁目。泥の海にのまれ、街が失われた。

 新築、ペットOK-。愛犬のプードルを連れて、三好千賀子さん(48)と長女の麗奈さん(22)は今春、201号室に移り住んだ。

 夫と離婚してから、千賀子さんは居酒屋の店長として毎日深夜まで働き、女手一つで子供を育てた。友達のように仲の良い母娘。麗奈さんも就職し、家で2人でいる時間を大切にしたいと、千賀子さんは早く帰宅できる病院の売店に職場を変えた。

 20日午前2時半ごろ、雨脚はさらに強まり、ワイパーをどれだけ動かしても前が見えなくなった。

 タクシー運転手、木場良介さん(64)はルナハイツのすぐ近くにある県営住宅の自宅に戻る際、側溝の水があふれそうになっていたのを覚えている。

 近所に住む池田勝豊さん(72)はそのころ、空気の変化を感じていた。「むしり取った、雑草の根っこの土の臭い」。災害の前兆現象だった。

 複数の住民によると、土石流の発生は午前3時半ごろ。猛烈な勢いで斜面を駆け下りた。

 三好母娘の隣の202号室には、6月にいっしょになったばかりの新婚夫妻が住んでいた。看護師の石川仁美さん(37)は小児科で働き、子供が好きだった。同僚らが主催した結婚祝いのディナー。「優しい人なの」。夫のことを聞かれ、幸せそうに話した。

 夫の史郎さん(42)はグループホームの管理者として認知症のお年寄りをサポートしていた。根は優しいのに、スタッフを一人前にするため「わざと憎まれ役を買って出る」(同僚)。そんな人柄だった。

 「八木3丁目だし、危ないかもしれない」

 広島ホームテレビの幹部は20日朝、安否確認の取れないディレクターの身を案じていた。

 102号室の松枝隆弘さん(39)。もともとフリーランスでテレビ制作に携わり、「音声もカメラアシスタントも運転手も、全部していた」(カメラマンの友人)。ホームテレビには別会社から派遣され、念願のディレクターとして報道番組にも携わった。最近になって婚約者の樋口奈緒子さん(37)と同居生活を始めた。

 ルナハイツがあった場所には泥と岩しかなかった。若松順二さん(51)=香川県東かがわ市=は発生当日から毎日、妻と捜索現場に通い続けている。

 101号室に次女のみなみさん(28)の新居があった。3姉妹の真ん中のおっとりさん。「若松家の癒やしだった」という。

 短大卒業後に上京し、職場の上司だった湯浅康弘さん(29)と昨年10月に結婚。7月に夫の故郷である広島に来た。妊娠7カ月で、待望の男の子をおなかに宿していた。

 捜索は難航したが、25日以降は周辺で次々と遺体が発見された。ブルーシートに包まれて運び出されるたび、若松さんは近くに駆け寄って確認する。

 そうであってほしくない。ただ、あの子なら一番そばにいてあげたい。「重たくて暗い土の中から一刻も早く救い出して、きれいにしてあげたいんです」

 102号室の松枝さんと樋口さんは、死亡が確認された。

 最大の被害が出た八木3丁目。市災害対策本部によると26日午後6時現在で34人が死亡、18人が行方不明となっている。



Posted by 由香里 at 10:54│Comments(0)
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